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概要

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HIK大学図書館の役割と電子ジャーナルの動向について館長米山博志図書館に関わるようになって初めて、大学図書館は本の保存をするだけの場所でない大きな役割があることを教えられた。拙稿を利用して、大学図書館について、その役割とそれを取り巻く動きの一つについて少し触れたいと思う。佐賀大学附属図書館は、92の国立大学等の附属図書館から成る国立大学図書館協会(JANUL)に属している。そのJANULは、昨年「国立大学図書館協会ビジョン2020」を採択した。その基本理念は、これからの大学図書館のあり方を示していると思うので紹介させていただく。それは「大学図書館は、今日の社会における知識基盤として、記録媒体の如何を問わず、知識、情報、データへの障壁なきアクセスを可能にし、それらを活用し、新たな知識、情報、データの生産を促す環境を提供することによって、大学における教育研究の進展とともに社会における知の共有や創出の実現に貢献する。」というものである。この理念の実現に向けて、3つの重点領域1.知の共有、2.知の創出、3.新しい人材、を定め、それぞれの目標の達成に向けて2020年を節目として取り組みを進めることとしている。大学図書館の第一義的な役割は教育・研究を支えるということであり、世の中の動きに沿って変化する教育・研究のあり方に依存して図書館の役割の果たし方も変わるということだと思う。その最も大きな要素が電子化ということであり、従来の図書の整備・保存という役目に加えて、研究成果の電子的流通、保存、オープン化、電子リソースの適切な整備をすること等が重要な役割になってきている。また、ラーニングコモンズやリサーチコモンズのように、教育の質を高めたり研究の進展を促したりするための場を提供するということも図書館の重要な役割である。研究を支えるための図書館の大きな役割の一つとして電子ジャーナル(EJ)の整備がある。しかし、EJの価格は市場の特殊性、出版社の寡占状態、投稿論文数の増加、システムの開発・機能強化などを理由に毎年値上がりを続けている(小陳左和子氏(JUSTICE)、2015東海地区大学図書館協会研究集会)。主要なEJはパッケージ契約という形態をとっているが、多くの雑誌を利用できるという大きなメリットがある一方、購読規模を維持する条件の下、契約価格は毎年数%ずつ上昇するため、その金額は大学の運営に大きな影響をもたらす程になっている。このまま価格の上昇が続けばEJの維持は不可能になるため研究基盤が大きく揺らぐことになり、その結果、研究の健全な発展が阻害されることになることは必然的であり、この契約形態は限界に近づいて来ていると言えよう。このような状況の中、著者が論文処理費用(APC)を支払うことによって誰でも自由に閲覧が可能なオープンアクセス(OA)ジャーナルの普及が進み、OAが主要な利用形態になる傾向が見られる。今年、千葉で開催された国立大学図書館協会総会の研究集会での講演「海外における学術雑誌のオープンアクセス化の動向」(細川聖二氏(東大附属図書館、JUSTICE運営委員会))で、その知見を得ることができた。それによると、2015年に出版された論文のうちOAは全体の約18%(著者支払いは13%)を占めるが、購読型論文の数が毎年1 ? 4%の割合で増加しているのにたいして、OAは毎年12 ? 24%で急増している。また、現在、商業出版社が主体のOAが主流となっている中で、高エネルギー物理学分野では、欧州原子核研究機構(CERN)という研究機関が中心になって,世界の主要な図書館、助成機関等から集めた購読料をAPCに振り替えてOA化を進めている(SCOAP 3)。その対象となっている雑誌の一つであるProgressof Theoretical and Experimental Physicsは、OA化される前と後では年間平均ダウンロード数が18倍増えたという報告があり(Salvatore Mele氏(CERN),13 th Berlin Open Access Conference, Berlin, 2017)、利用度の促進というOA本来の目的にも適った成果を上げている。さらに、欧州では、APCと購読料を組み合わせたパッケージ契約形態も実施されるなど、従来の契約形態に代わる、OAを基にした新たな形態が模索されている段階に来ている印象がある。このOA化については、国際的な取り組み(OA2020)が進行しており、2020年までに主要な学術雑誌のOA化を目指すという。その動向を見守りたい。ARINO1