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概要

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解説本作は佐賀大学附属図書館・市場直次郎コレクション所蔵、伊藤若冲(1716-1800)作「鯉魚図」である。水面を揺らし、天に舞い上がるかのような鯉。滲ませた墨と墨の境に白線が残る画仙紙の特性を利用した「筋目描」を巧みに用い、鱗を描き分ける。水の動きを略画的に表す余白の表現、生き物の無我の生命感を示すような漆黒の目の描写、躍動感ある構成等に独自の造形感覚が認められる。京都の青物問屋に生まれた伊藤若冲は、40歳で家督を弟に譲り画業に専念。初期は狩野派、中国の宋元画や明清代の民画に学んだのち写生へと進み、写実を越え奇矯で幻想的な極彩色の花鳥画を確立し、評価を高めた。その一方、水墨略画で動植物や吉祥の画題を描いた作も数多い。本作で描かれるのは、立身出世の画題である鯉の滝登りではないだろうか。款記はなく、印章は白文長方印「藤女鈞印」、朱文円印「若冲居士」。類似作が、江戸絵画のコレクションで著名なアメリカのプライスコレクション他に数点確認される。貴重書紹介伊藤若冲作『鯉魚図』(市場直次郎コレクション)美術館での展示の様子本作は、平成27年に佐賀大学美術館で開催した「市場直次郎コレクションより花鳥風月に遊ぶ~近世の絵師と歌人~」にて初公開。出品作には、近世京都の文化人名録『平安人物志』に名が残る若冲をはじめ、文人画の与謝蕪村、池大雅・玉蘭、紀梅亭、円山四条派の長澤蘆雪、山口素絢、円山応震、松村景文や、狩野永岳、土佐光孚が含まれる。扇面を中心に全31点と、小規模ながらもコレクションの質の高さと、江戸絵画の多様性を示す展示となった。市場直次郎氏(1904-96)は専門である民俗学研究の傍ら、20代から70年以上にわたり近世文学や扇面、掛軸など1900点を超える資料を収集。本作は、表装の配色も自身で手掛け、子息の端午の節句に合わせ床の間に飾った。芸術を解し、時節に合わせその美を愉しんでいたという。(たましん地域文化財団学芸員元佐賀大学美術館藤森梨衣)印刷工程では有害廃液を出さない「水なし印刷」を採用。ひかり野佐賀大学附属図書館報№40 2016年8月ホームページアドレスhttp://www.lib.saga-u.ac.jp/編集発行佐賀大学附属図書館〒840-8502佐賀市本庄町1番地TEL(0952)28-8902 FAX(0952)28-8909印刷株式会社三光