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概要

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Saga University Library Bulletin,No.40,August 2016アクティブ・ラーニングとラーニング・コモンズ―社会人基礎力の育成のために―副館長宮本比呂志私の大学生時代は30年以上前ですが、専門職教育を行う医学部で学びましたので、当時でも、「大学教育は社会に出て働くためのトレーニング」という認識でした。しかし、その当時、他学部に進学した友人たちは大学教育が社会に出て働くためのトレーニングという意識はほとんどなく、社会・企業もそれを望んでなかったように思います。トレーニングは入社してから社内で行うというのが企業のスタンスでした。終身雇用制のもと右肩上がりの経済状況で企業が人材育成に時間とコストをかけることができたからでしょう。「大学での学びは社会で役立つのか」が論じられ「大学での学びは社会でさほど役立たない」という意見が多数で、それが許容されていたと思います。しかし、近年、終身雇用制の崩壊や熾烈なグローバル競争、そして経済状況の悪化などにより企業に一から人材を育てる余裕がなくなりました。企業は「基礎学力」「専門的知識」に加え、多様な人々と仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力(社会人基礎力)を持った即戦力の人材養成を大学に求めています(経済産業省ホームページ)。そのような人材を育てるための授業方法が能動的学修(アクティブ・ラーニング)です。平成24年の中央教育審議会(中教審)の答申で、「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要」という見解が示されました。いわゆる「学習から学修へ」という教育の質的転換答申です。それ以降、問題解決型学習(PBLやTBL)やディスカッション、プレゼンテーション、グループワークなど、伝統的な授業(受け身の授業)とは異なる学生参加型の授業が増加しています。これらの授業は大学生の「主体的な学び」を育むための授業方法です。しかし、特に新しいものではなく、医学教育では20年以上の実績があります。社会に出て働くためのトレーニングとして大学教育をとらえるならば、医学教育で証明されているようにアクティブ・ラーニングは必要不可欠と思われます。中教審の質的転換答申は即戦力の人材を育成することを大学教育に求めた経済界からの要請でもあります。米澤誠先生(東北大学)も「アクティブ・ラーニングは新しい概念ではないが、重要なところは大学生の社会的能力を高める機能を果たすことだ」と述べておられます(IAALニュースレターNo.13, 2013)。経済産業省が2006年から提唱している「社会人基礎力」は「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」です(経済産業省ホームページ)。大学が「社会人基礎力」を意識的に育成していくためには従来の受動的な学習では不十分で、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、協調力などを育てるアクティブ・ラーニングが必須でしょう。このアクティブ・ラーニングを促進するための学習環境が「ラーニング・コモンズ」です。佐賀大学附属図書館でもハード面での整備が完了しました。ラーニング・コモンズではレポートやイベント開催などのグループ活動の成果物やプレゼンテーションなどの学生さんが学修から生み出すさまざまなアウトプットへの支援が大切です。「与える教育観」「放っておく教育観」でなく、「支える教育観」(北海道大学守屋淳先生)に基づいて、図書館職員だけでなく大学内の各部署が適切に連携し協力できるかが私たち教職員の今後の大きな課題です。これまで述べてきたように、21世紀になり職業人教育を重視した大学教育が求められるようになりました。学問に「社会化」の要素が意識され、大学教育改革と呼ばれています。中教審は、平成28年5月30日、ITなど成長分野で即戦力となる人材育成を目指し、実践的な職業教育を行う「専門職大学」創設を答申しました。中教審会長を教育者や研究者でなくて財界人が務めている現状では当然の答申かもしれません。しかしながら、大学はそもそも学問をする場です。学問の研究と教育の基本は「自由」「知の継承」そして「知の創造」です。「興味の赴くままに本を選んで独り静かに読書して知を拡げる」という学習環境を図書館は提供することを忘れてはいけません。「悠々知酔」は医学分館運営委員の高野吾朗先生が命名された佐賀大学オリジナル清酒の名前ですが、悠々知酔できる静寂な学習環境も図書館は維持したいと思います。皆様のご利用をお待ちしています。2