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概要

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ラーニング・コモンズのコンセプトと空間工学系研究科都市工学専攻田口陽子昨年度末に附属図書館がリニューアルオープンし、1階すべてが会話可能なラーニング・コモンズとして利用できるようになりました。ラーニング・コモンズは、「本を静かに読む」という個人の活動に特化した従来の閲覧スペースとは全く異なるもので、学生相互の主体的な学習のために設けられた多目的学習空間のことです。建築空間研究室の当研究室は、ラーニング・コモンズのデザイン検討においてコンセプトづくりと空間提案に関わりました。ラーニング・コモンズが設置された背景には、情報技術の発達によるインターネットの普及とともに図書館の役割が変容していることがあります。ここでは、情報収集やコミュニケーションの方法の変化について私見を述べたあと、新しく整備されたラーニング・コモンズのコンセプトと空間についてご紹介したいと思います。私が大学生だった1990年代はインターネットが普及し始めたばかりで、インターネットで入手できる情報も限られていたので、レポート課題などの際に有益な情報を得るためには、まず図書館や書店に行って本を探すところからはじめるしかありませんでした。否が応でも書物に多く触れる機会があったわけですが、いくら読んでも自力では理解が及ばない本もありました。自分でどう判断したらよいかわからない情報が多々あり、それらを理解するための枠組みを得る必要がありました。そこで役立ったのが、友人との勉強会、先輩の卒業制作の手伝い、国内外の建築旅行、他大学の学生との交流、設計事務所でのアルバイトなどの課外活動です。課外でのいろんな人々との出会いを通じて、ものごとを見るさまざまな視点を学習しました。当時の大学にラーニング・コモンズはありませんでしたが、学内外のいろんな場所、むしろ都市のなかに、そのような学習の場を見出していたのだと思います。2000年代に入るとインターネットを通じたコミュニケーションのあり方が変わり、送り手と受け手が流動化して誰もが自由に情報を発信できるようになりました。インターネットを通じて意見を交換する機会が増えたことで、わざわざまちに出て人と会わなくても情報を理解するための枠組みや視点が得やすくなり、教育や学習の場においてもインターネットの活用が一般的になりました。その一方で、TwitterやFacebookなどのSNSでは自分と同じような価値観の人々からしか情報が入って来ないという側面もあり、異質な価値観に接触する機会が減っているという報告もあります。これは、コミュニケーション方法がフレキシブルになったことで、逆説的に、情報にバイアスがかかりやすくなったことを意味しています。ラーニング・コモンズのデザイン検討に際しては、コミュニケーションの活性化ばかりに目を向けるのではなく、さまざまな視点が同時に存在しうる場所にしようと考えました。つまり、インターネットが普及する以前のまちに出て情報を探索していたかの状況を図書館につくろうと考えました。具体的な計画としては、複数人のコミュニケーションに特化したフレキシブルに使えるテーブル・椅子だけでなく、かたちや色がさまざまなテーブル・椅子、そして見通しと回遊動線に配慮して曲線形の低い書架をレイアウトし、多様な学習の場を並存させる計画としました。コンセプトは、「知に出会う場」「ともに学び、創造する場」「多様な居場所」です。可動式のテーブル・椅子とホワイトボードを70席準備したグループ学習スペースでは、書物やインターネットなどからのさまざまな情報を用いてグループワークやディスカッションを行うことができます。カウンターの前には曲線形の書架があり、そこで新しく出会った書物を手に取り、円形のソファに腰掛けて拾い読みすることができます。サークル型のPCテーブルでは、PCを用いた個人作業とグループワークの両方が可能です。エントランスホールにある青いオブジェのようなテーブル・椅子では、リラックスした姿勢でディスカッションやグループワークを行えます。1階すべてが会話可能ですので、その時々の気分や目的に合わせて好きな場所を選んで、いろんなことに使ってもらいたいと考えています。多様な学習のあいだに《見る》《見られる》の関係ができ、お互い刺激を受けて創造性が高められるような場ができていくとよいと思います。空間や家具などの物理的要素が一通り揃ったので、これからは、学習サポートの人的サービスの導入や、書物やインターネットの情報を活用した学習法の試行など、利用者と運営者によってラーニング・コモンズの空間が上書きされていくことでしょう。そして、ラーニング・コモンズが佐賀大学の多様性が顕在化するリアルな場所になることを願っています。HIKARINO3